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書くのが生き涯

 ――馬鹿みたい。
 ユリアの呟きに顔を上げれば、携帯の明かりに照らされた端正な顔が暗闇に浮かび上がっていた。
「なに?」
「ぜーんぶ」
 ユリアはこちらを見もせずに、つまらなさそうにそう言った。ポーズだけかもしれない。けれど、本当につまらないのかもしれない。
「馬鹿なら踊らないと」
「絶対イヤ。同じ馬鹿なら見てたほうが数倍マシ」
「同じ阿呆なら?」
「見てたほうが数倍マシ」
 パチン、と折りたたみ式の携帯を閉じる。
「ていうか馬鹿も阿呆も一緒でしょ」
「大違いだよ! 関西人に馬鹿って言ったら殺されるんだよ」
「ナニソレ? 意味わかんない」
 そんなことで殺されちゃかなわない、とでも言うようにユリアは大仰に肩をすくめた。肩にかかるツインテールが揺れる。
「メール着たの?」
「あと3時間」
「長いね」
「もう帰りたい」
「ギブアップは負けだよ」
 そう言って膝を伸ばした。尻についた泥を払う。
 立ち上がったのでユリアを見下ろす格好になる。
「負けたら終わりだよ」
「知ってるわ。でももう帰りたい」
 今度はこちらが肩をすくめた。ユリアはきっと口に出して言いたいだけなのだろう。行動に移すことができないし、するつもりもないから、せめて鬱憤を体外に出したいだけなのだ。
「教授が出てくれば終わるよ」
「出てきたことないけどね」
「なら、ユリアがユウトの使徒を全滅させるか、ユウト自身を殺すしかない」
「……無理」
「でしょ」
 深いため息が隣から聞こえた。
 夏の前とはいっても、夜の2時ともまれば当然だが冷える。もたれかかったコンクリからじんわりと冷たさが伝わってきて、さりげなく背中を離した。
 残り3時間。
 あと3時間もすれば、もう朝の時間だ。太陽は昇っていないだろうけど。
「待つしかないんじゃないかな。ユリアは戦いたくないんでしょ?」
「負けるに決まってるもの」
「どうしてわかるの?」
「私の力は修復させるだけだもの。腐敗も破壊も裁断もできない。どう考えても攻撃タイプじゃないわ」
「ものは使いようだよ? 包帯でだって人は殺せる」
「…………」
「ごめん、いじわるしたね」
「……別に」
 ユリアはそっけなく言って携帯を取り出した。開いた待ち受け画面を見つめる表情がディスプレイの明かりによって浮かび上がる。
 端正な顔には、憂いが見える。
 あと3時間。
「……長いね」
 ぽつり零れた呟きに、ユリアは携帯を見つめたまま相槌を打った。
「もう帰りたい」
 

end
*****

書かないと死にそうだったので書いてみた突発文。

バイトいってきます。
 

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