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鳴き声が、「うどん」

 兎の足がピタリと止まる。私の方を向いたまま、褐色の兎はニヤニヤとした嫌な笑みを一層深くして、ゆっくりと振り返った。
「……ウサギ? 誰が、ウサギだって?」
 褐色の兎には、金髪の間から生える白くて長いウサギの耳が見えないのだろうか。
 私はたしかに、彼を追いかけてこの世界へやってきた。だから、彼が不思議の国のウサギであることは間違いないはずなのに。間違いなど、ない。……はず、なのに。
 ――なにかが不自然だ。
「この世界が不思議の国に似せて作っただけの贋作であることは、創造主であるお前が誰より分かっているだろう。俺に無駄な時間を食わせるな、俺が食うものはお前のその歪みだけで十分だ」
「なにが歪みだふざけるな! 三月兎の出番はこんなところじゃあないだろう! 持ち場へ戻れ、ここは女王の法廷で、ジャックはタルトを盗んだことを裁判にかけられるはずだったの……に…………」
 いきり立つウサギの声はどんどん尻すぼみになっていった。そこにすかさず、三月の名を持つ褐色の兎が切り込んでいく。
「タルトって一体何の話だ? この裁判は誰が青薔薇の花を咲かせたか、というものじゃなかったか?」
「違うっ! こ、これは……!」
 金髪のウサギが一歩踏み出す。腐敗した木片が転がる真っ赤なカーペット。その上にウサギが足を乗せた瞬間、じゅわりという音を共に酸の臭いが放たれた。
 褐色の兎が金のウサギに追い討ちをかける。
「誰がタルトを食べたのか、というのは不思議の国のアリスでの話だ。青い薔薇なんて不思議の国には出ては来ないし、何より一番の問題は不思議の国ではウサギは人の形をしていないということだ」
 背中を向けられているので、私には兎がどんな顔をいているのかわからない。
 パクパクと鯉のように口を開け閉めする金髪のウサギは、ここまで言われてもなお引き下がらなかった。
「ウ、ウサギは人の形をしている、もの、だ。そ、それは私がウサギだからで……こ、ここは……」
 しどろもどろのウサギに、兎はやはり嘲笑を含んだ声で問う。
「ここは、どこだ?」
 金髪のウサギがまた一歩前に出る。ジュワリと、酸の臭いが強くなった。そこは三月兎が通った場所だから危ないのに、どうやら気づいていないらしい。ウサギらしくない失態だ。否、白いウサギならば、そもそも黒い兎の酸に触れることはないだろう。
 金の髪は――本当にウサギ、なんだろうか?
 金の髪のウサギは、さらに一歩前に出る。ずるり、と白く長い耳の片方がズレて、そのまま落下した。
 片耳のウサギは、さらに全身する。その先に待つのはあの狂った三月兎。震える腕を伸ばしてまた足を前に。ぼとりと、残っていた白い耳がずり落ちた。
 黒い耳のウサギの肩が揺れる。背中越しに聞こえるのは、クツクツというどこか耳に馴染んだ笑い声。
「夢の中であろうと、憧れで自分を消失させウサギに成り代わろうなんて愚かだ。そのうえアリスを巻き込むなんて、愚の骨頂も越えている。お前は黙ってティーカップの中で眠っていればいいんだよ。なんならジャムを鼻に塗ってやろうか? それとも――チェシャ猫を連れてこようか」
「チェシャ猫!」
 金髪のウサギ――否、もう耳がないのでウサギとは呼べない金髪の青年は、その名前を聞くと文字通り飛び上がった。そしてがくがくぶるぶると身を震わせて挙動不審な動きで辺りを窺う。
「チェシャ猫はいないはずだ……いないはずなんだ……だって失踪してるはずなんだ……号外が、号外が出ていたじゃないか……」
「ああ、号外はもう空を埋め尽くしている」
 私はその言葉に何故だかとてつもない衝撃を受けた。
 チェシャ猫を探す号外が空を埋め尽くしている――!!
 どうしよう、と思った。そして、何がどうしようなんだろう、と思った。
「……アリス、お前は本当に頭が悪いな。脳みそにあるはずの海馬に縁を切られたか? それともお前自ら海馬と縁を切ったのか?」
 兎は振り返って笑みを浮かべる。ニヤニヤとした嫌な笑み。とても身近にあった笑い方。
 褐色の肌を持つ黒い兎の耳を持つ少年は、誰かに似ている。
「アリス」
 兎は、混沌に濁る目で、私を射抜いた。
「お前に訊こう。アイツはなんだ?」
 言って指差した先には、金の髪を持つサングラスの青年。
 私は、思い出した。
 私は、彼を知っていた、
 金髪の青年は路地裏で倒れていた彼だ。否、それよりもっと前に会った――カエルの公爵の屋敷で、チャイムを鳴らすときに会った、意味不明な話し方で叫んでいた金髪の美丈夫。
「アリス、アイツは、あの金髪のサングラス野郎を覚えているか?」
 私は、少しだけ息を吸い込み、言葉を吐く。
 覚えていた。
 珍しくも、最悪に物覚えの悪い私が、覚えていた。
「彼は――」
 褐色の兎がニヤニヤとした笑みをより深くする。
 サングラス越しでは、驚愕に見開かれたはずの瞳は見えない。
「――眠りネズミよ」
 サングラスが音を立てて弾けとんだ。
 夢が覚める。

title of "Not rabbit. In fact, it is a sleep mouse."
to be continude...?
*****

友達の家を借りて勉強会するときに、先にみんなでご飯を食べるのですが、昨日は鍋にいっぱいに後輩がうどんを作ってくれました。
そして友達と一緒に食べていた時、ふとKちゃんという子がお箸ですくっていたうどんをつるっと落しました。
その瞬間。
∑( ’□’)「うどんっ!」
部屋に響く「うどん」という単語。しかも確実に反射的に口から出てきたその言葉に、
一同大爆笑というか僕が大爆笑。

そんなわけで、今週の身内キーワードは「うどんっ!」です。


翼です。

金曜から月曜にかけてまた日記が止まるやもしれません。
というか土曜日にゲームショウに行くのだけれど、朝起きれないから友達の家の近くのMACで世を明かそうか迷い中。うだうだと。

そしてmixiにあげる用のSSを書き始めたら無駄に長くなってしまった。
文体崩し用の原文があの長さで公開するやつがどんな長さになるのかわくわく。
原文はそのうちUPし・・・ないと思います。ワンシーンすぎる。

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