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門番

またも友達だより。


ハロウィンはとっくにすぎたというのに。  ぎしりぎしりと縄が鳴く。
 スニーカーが目の前で揺れるのを見ながら、少女は壁際の蝋燭を見つめていた。
 頭上ではカチカチカチカチと金属がぶつかり合う音が部屋を覆いつくさんばかりに鳴り続けている。暗がりのなかで部屋の様子を語るのは点々と置かれた蝋燭の僅かな明かりだけ。
 少女は見せ付けるようにため息を吐き出して、目の前を揺れる足を上へと辿った。スニーカーからは白い靴下が生え、そのうえに血の気のない足が伸びる。細い太ももはハーフパンツの中へと消え、そのうえにはだぼついた袖のないパーカー。肩からは足のように細い両腕が伸びていて、フードと頭部の間には太い荒縄が巻かれていた。そのさらにうえ、頭部があるはずの場所には奇怪なものが存在していた。
 荒縄の上でカチカチと金属の音を立てて笑うのは、ハロウィンの時期に街中にあらわれるカボチャのランタン――にしては、それは少年の頭部をすっぽりと隠してしまうほどに大きかった。
「……ハロウィンはとっくに終わったはずだけれど?」
 カチカチカチカチ。
 天井から伸びた縄で吊られた状態の少年は、少女が触れただけでその軽い体を揺らすことになる。
「笑ってるだけじゃなんにもわからないわよ」
 カチカチカチカチカチカチカチカチ。
 金属音が一層激しく響き渡る。蝋燭の明かりが床から棚からカボチャ頭の少年を照らし出すも、くりぬかれた目と口の、その奥にある暗がりまでは照らしだすことがない。
「ねえ、なんとか言ったらどうなのよ」
 少女は戯れに少年の足を押して、そのたびに軋む縄の音に耳を済ませる。ぎちり、ぎちり。そのたびにカボチャは嗤う。カチカチ、カチカチ。
 少年の体が揺れるたび、壁に映る少年の影も揺れる。ブランコのようだと少女は声を上げて、けれども、その言葉にすら少年の態度は変わりなかった。
「そのうち腐って頭部まで溶けてしまえばいいわ」
「カチカチ魔女の言うことカチカチは本当にカチカチカチなるからカチやめたほうがいいカチカチカチ」
「耳障りね」
「カチぼくもカチカチそうカチカチ思うよカチよカチカチ」
「……どうして首を吊っているの」
 そんなこともわからないのかいとでも言いたげに、少年はカチカチカチと嗤った。
 カチカチ、カチカチと金属音が部屋に充満する。次第に少年の頭部をすっぽりと覆ったかぼちゃは嗤いと共に振動し、それにつられてか体まで揺れ始めた。薄暗い部屋のなかでその揺れは次第に大きくなっていく。
「………………」
 少女はその様子を退屈そうに見つめながら、「アナタが息を吹き返すか、そのかぼちゃが崩壊すれば」と呟き、目の前を横切ったスニーカーの先端に息を呑んだ。
「カチカチ魔女の言うカチカチことはカチ真実になっカチカチカチてしまうカチカチからやカチめたほうカチカチがいい」
 それに、とかぼちゃはだらんと垂れた首で少女を見下ろした。
「ぼくがここを離れれば、君のような子があの扉を開けてしまうだろうから」
 カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ。
 それはかぼちゃの嗤い声と共に、少女の体をその場に縫いとめた。
 少女は少年の向こう、蝋燭に囲まれた扉を見つめて目を細めた。憧れと畏れと期待を裏切りで塗りつぶされた子供のように、少女は傷ついた表情で少年の頭を見上げ、そして再び息を呑んだ。
「いくらカチカチ魔女でもカチカチカチじごカチカチくへの扉カチカチはくぐカチカチカチらせないよカチ」
 少女を見下ろしたかぼちゃの目が蝋燭の明かりに照らされる。くりぬかれたその向こう、ただあるのは白くくりぬかれたかぼちゃの内部だけだった。
「諦めることだね」
 そう言ってカチカチカチカチと少年は嗤った。

-----
end

なにかになった。
 
「キーワード3つください」といって渡されたのが
「かぼちゃ」「少年」「首吊り」でした。
”地獄の門番”ジャック・オ・ランタンのお話。
実際のジャック・オ・ランターンはカボチャのランタンを手に持ち、天国へいくことも地獄へいくこともなくこの世をさ迷う存在だそうです。旅人を目的地まで道案内することもあるそうな。

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