「バイバイ、また明日ね」「明日って何時だよ?」 ――ウサギの役割はなんだったのだろう。 その問いは、やはり埋めるのが良いのだ。余計なことは全て全て箱に詰めて沈めなければ。そうしないと箱から溢れたそれに喰い殺されてしまう。「チェシャ猫のように?」 ――なんですって?「世界の果てに行こうアリス」 声は、ひどく頭に響いた。「世界の果てに」 小さな子供を寝かしつけるときのように優しい声でウサギは囁く。 だんだんと眠くなってきてしまった。このまま白いウサギの暖かな腕の中で眠ってしまったらどうなるのだろう。 それはきっと、とても幸せなことではないのだろうか。「アリス、一度眠るといい。僕が連れて行ってあげる」「……何処へ?」「決まっているさ」 優しい声も、温かな抱擁も、頭を撫でる柔らかな仕草もすべて白いウサギのもので、私はそれが大好きで。 けれど、「本当に気に喰わない奴だなお前は」 そんな私の大好きなすべてを――褐色の風が、壊した。 耳に唸りを届ける突風が薔薇の庭園を渦巻く。再び勢いを増した竜巻が私の肌を切り裂かんばかりに舞い狂う。「――あな」 た、と呼びかけようとした私をぎゅっと抱き寄せて、ウサギが笑う。「マッディ……君は本当にアリスが好きだね」「ハッ。大嫌いさ」 褐色の声だけが私に届く。「よぉ、青い薔薇の花言葉まで仕舞ったのかアリス。大切な人をそうやって何人殺していく気なんだ?」 何を言っているのだろう、この褐色の声は。「やめてくれないかなマッディ。アリスを苦しめてはいけない」「苦しまなければ何をしてもいいのか」「僕はアリスが苦しむのを見たくはないんだよ」 悲痛な声とともに、私を抱く腕に力がこもる。痛い。「――そうやってアリスを囲うんだな」「アリスの為に」「それで良しとするのか」「アリスは頷くよ」「…………間違っている」 何が、間違っているというの。「間違っていないよ。これが真実さ」「真実はお前が決めるものじゃない」「僕が決めるものだ。君は事実だけを見ていればいいよマッディ」「――……ハッ、傑作だなこりゃ」 最高だぜ、と兎が声を上げて笑う。きっと褐色の肌を歪めて笑ってるのだろう。褐色の声はそう言っている。「だがな」 ふ、と。 空気が表情を変えた。「おいアリス、時計が言ったことを思い出せ」 ――時計?「余計なことを言わないでくれマッディ」「世界の果てに何があるのか知っているだろう。時計も知っている。あのトランプの女王だって知ってる。チェシャ猫も、そこのお前を拘束しているソイツだって承知だ。わかっている奴はみんなわかっているんだ」「マッディ、いい加減アリスに馬鹿なことを吹き込むのはやめてくれ」 困ったな、とウサギが呟く。 私は混乱する頭で、もう考えられなくなっていた。 脳裏を過ぎるのは開きかけた箱の隙間に見える風景ばかりで、一体それが何なのかさぱりわからない。 忘れているだけなのだろうか。それとも最初からそもそも何もなかったのか。「アリス――忘れてはいけない」 褐色の兎が言う。「椿姫とトランプの女王を連れて早く城へ向かえ。白薔薇に喰い殺される前にな」 と言われても、私は今ウサギに抱きしめられている状態だ。それにこんな竜巻のなか、どうやって進めというのか。「アリス」 優しげな呼び声に顔を上げる。「なあに?」「僕は世界の果てで、きっとチェシャ猫と共に居る。だから逢いに来てくれないかな」 絶対、逢いに来て。 ウサギはそう言って私の額にキスを落とした。ピリピリするような違和感が額に残って、その後に見たウサギの顔はとても綺麗だった。「私、は」「君ならきっと来れるから」 白い肌をしたウサギは柔和に微笑んで私を解放した。 ふわりと浮くように体が離れる。 途端。「――…………え」 竜巻も、ウサギも、褐色の声もすべてが消え失せていた。「……なに、が」 辺りを見回してみると、足元は青い薔薇と黒い薔薇の花弁で覆い尽くされていた。絨毯のように伸びる黒と青の花びらの中、眠るように倒れていた椿姫とトランプの女王。「――世界の果て……」 行かなければならない、と思った。 そこに白いウサギ耳の少年がいるのだというのならば。 絶対に、行かなければならない。「行かな、きゃ――」 無意識のうちに呟いて、私は倒れている椿姫とトランプの女王を起こしにかかった。Title of "memory"To be continude...?*****無理矢理書いた。急ピッチだなしかし。3時回ったぁああ!!(大汗寝ます寝ます!明日集合9時半には家でないとだYO!!バスの中で寝よう。酔うし。行ってきまあああす!!!! [0回]PR