期待されるから、つい、ね。 椿姫の呼びかけにアリスは応えなかった。 背中にかかる重圧が増したのに気付いた椿姫は小さな悲鳴を上げて駆け出した。「お願いだから死なないでアリス…!」 折角会えたのに、と椿姫は思った。トランプの女王から話を聞いてから、ずっとずっと会いたかった少女。 否、会わなければいけなかった少女。「あなたが死んだら困るのよ――!」 アリスは世界の神だとトランプの女王は言った。 アリスは世界の原理だとトランプの女王は言った。 アリスは世界そのものだとトランプの女王は言った。 アリスは、「お願いだから死なないで――私の為に!」 ――アリスは、次期トランプの女王候補のひとり。 トランプの女王の言葉を頭の中で反芻しながら、椿姫は大広間へ続く扉を開いた。キリギリスの妾になってもうすぐ半年、この屋敷の構造は知り尽くしているつもりだった。 けれど。「…しまったわ」 呟きは暗闇に溶けて消える。「歪みが増えているわね。あの泥兎、こうなることを予測していたのかしら」 椿姫とアリスを覆った黒一色の景色。 音もなく光もなく形もなく影もなく姿もなく。椿姫にあるのは自身の声と背中にかかるアリスの重みのみ。「これは混沌なのか翳なのかどっちなのかしら。……まあいいわ、どちらにせよ私に打開策はないし」 ひとり呟き、暗闇の中できゅっと舌を噛む。「早く来なさい――ここはアンタの出番でしょ」 ブチィと口内で音がした。輝くような真っ赤な血が、椿姫の小さな唇の隙間から流れ落ちる。それは椿姫のアゴを伝い、色もなにもない足下へと落ちる。 己の舌からどくどくと流れ出る血で喉を潤しながら、それでも椿姫はするどい犬歯で傷口を広げた。「さっさと来なさい…使えない小娘ね」 呟きが赤い色に染まる頃、カツン、とヒールの音が耳に届いた。 椿姫はくすりと笑い前方を見据える。漆黒の暗闇の中に浮かび上がるのは、陽炎のごときオレンジ色の灯り。 カボチャに顔を模した刳り抜き。 カボチャの中に燃える炎。 その先、オレンジ色のカボチャをぶら下げる手は白く、その腕を覆うスーツは白く。「ハァイ、ロリコンババァ」「はぁい、トランプちゃん♪ 私の血の匂いはそんなに良い香りかしら?」「ああ…もうヨダレが止まんないくらいねぇ…」 トランプの女王は真っ赤な舌で自分の真っ赤なルージュをなぞった。微笑みは艶やかでいて毒々しい。 その仕草を見つめて、椿姫は血を吐き出した。そうして口を開き舌を動かす。「切れ目を行き来できるのは、いまジャク・オ・ランタンを持てるアンタとトランプの女王様だけ……――休戦しましょ、アリスさえいれば私もアンタもトランプの女王にならなくて済むのよ」 にっこりと無垢な微笑みを浮かべる椿姫。 トランプの女王はクツリと笑った。「提案にのってやるよ、椿姫。アタシはトランプの女王にさえならなければ他はどうなったっていいのさ。そもそもの目的は椿姫、アンタを殺すことじゃない、アンタをトランプの女王の前に引きずり出して、もう一度選定をやり直すことだったんだからねぇ」「なら早く道案内を頼むわ。茨の森まで導いて頂戴。アリスが死ぬ前に、そして泥兎や耳障りな怪鳥に見つかる前にね」 ゆっくりと椿姫の瞳孔が広がる。そう、そもそもトランプの女王の目的はそこにあり、椿姫の目的も同位置に存在した。 アリスを――新しいトランプの女王に。 自分達の――身代わりに。 だからこそ椿姫もトランプの女王もアリスに会うことを心待ちにしていた。ずっとずっと、先代トランプの女王にアリスの話を聞いてからずっと。「こっちだ」 笑みを深くしたトランプの女王が先を歩く。 アリスの呼吸が止まっていないことを確認して、椿姫も後へ続いた。Title of "A purpose."To be continude...?*****ワンクッション。アリスが意識を失ってしまい、ひとっ走りするのも戸惑われたので補足のような。軽くネタばらしみたいだけど、実際トランプの女王様がどう考えているかはわかりません。眠気がピークを過ぎて、今度は体力がピークを迎えてきました。布団に入るまでもう少し頑張ろう。翼です。とくに書くことがないなぁ。とりあえず企画書の制作を頑張ろうと思います。目指せ就職。ていうかそうだ、ゲームをしよう。ゲームしなくちゃ。能動的に。映画やアニメはとても受動的に見られるけど、本やゲームはそうはいきません。自分で文字を読まないと、操作しないと、話は進まないからね。ああ、そうそう、書くことがあった。僕は基本的に、短編はすべて書き下ろしになるみたいです。再録してもブログからの転載だ。今日も書き下ろそうとは思ってたんだけど……集中力が続きませんでしたorzまー頑張ろう、うん。やりたいことだ好きなことだもん。 父さんや母さんにバレたら確実に殺されるだろうな。8000 [0回]PR