それは、その地獄の業火に焼かれる罪人の悲鳴のような、世を愁(うれ)い自ら首を絞め旅立つ世捨て人のような声は、私の名前を呼ぶことで卵の殻を着た双子を褐色の肌をした兎耳の少年をその場に縫いとめた。 チェシャ猫はにんまりと弧を描く口元を晒して辺りを見回した。 「どうしたの……?」 話しかけると、ぐりんとこちらに顔を向けて「べつに」と答えた。そうして褐色の肌をした兎に目を留めて、足音も布擦れの音も息遣いも髪の揺れる声さえもなく、三月兎の側へと動いた。無音という仕草を伴って移動するチェシャ猫を、双子は狂信者のような瞳で見つめている。 「………」 私の傍を通り過ぎる際、チェシャ猫は何かを落とした。 ピンク色のやわらかな地面に転がったそれを拾い上げてよく見てみると、どうやらキャンディのようだった。虹色の包装紙に包まれたキャンディにはちいさな紙が貼り付けてあり、そこには”It eats the cake if there is no bread.”という一文が踊っていた。 ――どこのマリー・アントワネットだ。そう思ったけれど口には出さない。 顔を上げると、チェシャ猫は三月兎と三メートルほどの距離を置いて退治していた。チェシャ猫の後姿(ピンクと紫のボーダーパーカーは、猫耳のフードがついている。シュールだ)の向こう、褐色の肌をした兎はニヤニヤとあの嫌な笑いを浮かべるでなく、ただひどく不機嫌そうに眉根を寄せて口を歪ませていた。 「アイツが探してたぞ、ボロ猫」 開口一番、兎はそう言ってチェシャ猫を非難した。けれどチェシャ猫はその呼称に黙して答えた。 沈黙は肯定である。そして真実、曖昧さを伴った否定でもある。 兎の頬が痙攣したようにひくりと引き攣り、その一瞬の後兎が動いた。動いたことだけ、分かった。 そして目の前に突然出現する、鈍い光を放つナイフ。 「…………面白くないな、相変わらず」 兎はそう言って不機嫌そうに鼻で笑った。 双子が呆けた顔でチェシャ猫を凝視している。 私は話しかけた。 「……チェシャ猫、あの…」 ぐりん、と首が回った。180度無理矢理回しているのかと思うくらい顔をこちらに向けたチェシャ猫は一言「?」と息を吐き出すことで疑問符を浮かべて私へ問いかけた。 「……刺さってる、んだけど……」 褐色の肌をした兎が放ったナイフは、チェシャ猫のキャプを突き抜けてその中へと刃のほとんどの姿を消していた。 非常にシュールなその光景に、当のチェシャ猫はただにんまりと口角を曲げるだけだった。
Title of "A surreal scene" to be continude...? ***** 「パンが無ければお菓子を食べればいいじゃない」と言ったのはマリー・アントワネットのイメージが強いですが、実際にはルイ15世の娘(ルイ16世の叔母)であるヴィクトワール内親王が言ったという説があるそうです。 でもって頭部にナイフがぶっ刺さって、刺さりどころが良くてそのまま気付かずに歩いていた人もいるそうです。