「結局アナタ、なにもしてないじゃない」 世界の果てと聞いて、みんなはどんなところを想像するのだろうか。 荒れ果てた荒野? 壊滅した都市? 何もない空間? 果てしなく広がる宇宙? きっと人の数だけ世界の果てはあるのだろう。それは人の数だけ想像の数があるから。世界の果ては想像のなかに存在する。 それは電気羊と同義だ。想像のなかだけだ。 想像のなかだけのはずなのだ。 なのに。「海が」 ふいに口をついて出たのはそんな言葉だった。 世界の端はすっぱりと、さっくりと、ストンと切れていた。「海が落ちてる……」 海を越えて見えた島の反対側はまるでテーブルの端のように垂直に陸地がなくなっていた。そこから右に視線をずらせば、島に接した海もまた、ストンと、さっくりと、すっぱりと切れている。そうして海が轟音を立てて地へと降り流れている。 落ちているのではない。流れているのだ。私には何故かそれが分かった。解っていた。「降りるぞ」 急激な下降で体にかかる浮力が怖かった。スコルの毛を握り締めて体にかかる負荷に耐える。どこか懐かしいようでなによりも恐ろしい、不思議な感覚だった。「ここが世界の果て?」 私はジャックに支えられながら(三月兎は既に降りていたので)ゆっくりとスコルを降りる。もふもふした羽毛と離れるのは少し残念だったので、名残惜しむべくしばらく触れていることにした。 スコルの羽毛を掴んだまま、地を踏んで陸に立つ。灰色の地面は土よりも少し固い気がした。「ここが、世界の果てです」 ジャックの声が頭上から聞こえてきたので仰ぎ見る。僅かに苦さを含んだ笑みを浮かべた彼はスコルから降りる気配がない。「降りないの?」「ええ。私がこの地に足を踏み入れることは許されておりませんので」「どうして?」「……私が敬愛する女王の命で御座います、アリス」「女王の?」「女王の」ジャックはそこでいよいよ苦笑を顔に出した。「さあ、おいきなさいアリス。旅のお供に良いものを差し上げましょう」 ジャックは微笑して腰に刺さったサーベルを鞘ごとこちらに差し出した。「……なに」「持って行ってください。針や糸は剣より弱い。これは貴女には必要なものです」 そう言って無理やりサーベルを握らされる。さあ、おいきなさいともう一度言われて、私は泣く泣くさわり心地の良い羽毛から手を離し振り返る。 黒い兎が私を見つめていた。濁った眼をこちらに向けていた。それがなんだか怖くて、ジャックに三月兎をどうにかしてくれと頼もうともう一度背後を振り返る。もふもふでふわふわのスコルに手をついてジャックをもう一度仰ぎ見る――ことはできなかった。「……え」 無抵抗の感覚に少し前につんのめった。 振り返ったそこには、何もなかった。 否、ただの空気はあった。 目の前には灰色の地が続き、相変わらず灰色の空をどこかで交わりそうな景色が広がっている。近くの、浜辺もない海が紺色の波を蠢かせている。 ただそれだけで、いまのいままで居たはずのスコルも、ジャックも、どこにも居ない。「……どうして?」 手にしたサーベルが鞘の中で小さく鳴る。その音は今さっき仰ぎ見たジャックの微笑を思い起こさせた。 To becotinude...?Title of "The world of gray and dark blue"*****そういえば数日前に爪を切りました。人間て爪を切るだけであんなに感動できるんですね。とにかく今は自分の爪に攻撃されることがなくてなによりです。今日は鰻でした。土用の日を一週間間違えてました。関係ないけど、昨日寝ようとしたら突然鼻血が出てきてかーなーりビビりました。鼻血出るなんて何年ぶりだろう…。まあ止まってよかったよかった。 [0回]PR