誰かに似ている。 白い背中を追いかけていたのを覚えている。 どうして、どうして、と私は何度も彼に尋ねた。けれど彼は振り向くことはなく、その大きな背中を私の瞼に貼り付けて優しい香りだけを置いて遠ざかっていったのだ。 黒い髪が踊る様は悲しげで、どこか苦しそうに歪んだ口元が柔和な笑みに変わった瞬間、私の中で問いが解けた。 ――ああ、これでいいのだ。と。 彼はいつだって傍にいてくれて、いつだって私を守ろうとしてくれた。だから私は救われようとして辛いことからも悲しいことからも逃げ出した。それが彼の望みだったし、私の望みだった。「アリス」 そう言ってひどく優しい声で私を呼ぶ声。「アリス」 そう言ってひどく苦味を帯びて私を呼ぶ声。 私は彼が大好きだった。彼も私を好きでいてくれたと思う。 ベットの上で不思議の国のアリスの物語を読み聞かせてくれるときの彼は柔和な笑みを浮かべていてとても優しいかった。眠りにつく前、窓から星の光が月の灯りが私たちを覗き込んでいる間は、世界には彼と私しかいなかった。世界にふたりだけだったのだ。 まるで世界の果てで二人きりかのように。 それなのに、彼はいつしか私に冷たい態度を取るようになった。どこか濁った目で私を見下ろす彼はひどく醜悪に見えた。けれど彼は相変わらず私の味方でいてくれたから、嫌うこともできなかった。嫌いだけど大好きだった。「アリス」 そう言ってひどく嫌味を含んだ声で私を呼ぶ。「アリス」 そう言ってひどく痛みを残した声で私を呼ぶ。 彼は私を好いていてくれたのだろうか。だんだんと彼のことが好きなのか嫌いなのかわからなくなってきた。 でも私は平気だった。彼はきっと私を嫌っていないと、そう思っていたからだ。その頃の私の周りには面白い人や楽しい人がいっぱいいて幸せだった。みんな私を好いてくれていたから、きっと彼もそうだと信じていたし微塵も疑わなかった。 それに、もしも、万が一、否、数千億に一、彼が私のことを嫌ったとしても、世界にはもう二人だけじゃなかったから平気だった。世界の果ては見えないところにまで遠ざかっていたし、私には悲しいことも辛いこともなかったから。 信じていた。何も考えず、ただひたすらに、私は幸せなのだと。 だから彼が――黒い兎の耳を生やした少年が――私を見て、いつものニヤニヤとした嫌な笑い方ではなくひどく真剣味を帯びた誰かに似た表情で、「嫌いだ」と言い放ったとき、私は自分の耳を疑った。一瞬後にニヤリといつもの笑みを浮かべた三月兎はそして消えた。 私は三月兎がいなくなった後も呆然として立ち尽くしていて、白いウサギの声でやっと我に返ったときには空には三日月が掲げられていた。「どうしたんだい、アリス」 白いウサギは柔和な笑みを浮かべて優しく尋ねる。「泣いているのかい?」「そんなことないわ。だって涙って悲しいときに出るものでしょう? 幸せな私が涙を流すはずがないもの」「それじゃあ、君の頬を濡らす涙は誰のものだろうね」「……私の?」 指先で自分の頬に触れる。なにか暖かな滴に触れた。「アリス、僕らのアリス。君に涙は似合わない。悲しいことは忘れていいんだ」「忘れて? 悲しいことも辛いことも?」「ずっとそうしてきたじゃないか」「ずっと……? じゃあそれが正解なのね」「僕は君が望めばどんなことだってしてあげるよ。僕が君の笑顔が望みだ。君が元気に走り回ってくれるのが望みだ。ああ、僕のアリス。すべては君の望むままに」「……それじゃあ、叶えてちょうだい」 そうして、白いウサギの耳を持つ少年は、私の悲しみや痛みを綺麗に箱に詰めて世界の果てに持って行ってくれる。 しっかりを封をしたその荷物を、白いウサギは沈めてくれるのだ。濁った目のように底のない黒い深淵へと。深く深く、そのもっと深くへと。 そして私は救われる。Title of "And I am saved."To be continude...?*****おおー・・・そろそろクライマックスかな。今日はいい日でした。でかけた帰り、もう終わっていると思っていたお祭りがまだやっていてリンゴ飴あんどイチゴ飴ゲット。そして飴の作り方を教えてもらう(砂糖を砂糖ひたひたよりちょっと多めに水いれて煮て、そこに苺シロップを投入。これだけb+)イエァ。そしてブックオフへ行き、ペンギン革命を6巻まで読み、電脳天使の続きを一気買いしました。多分、僕は「電脳天使」が大好きなんだと思う。帰りの顔の緩みが半端じゃなかった。でもあれほんと、キャラが立ってて面白いんですよねー。前の日記にも書いたけどホントに僕の好みどストライクなお話。てわけでしばらくされ竜はおあずけーっと。今日友達とメセで話していたら「絵って描く人に似るんだなって思った」と僕の描いた絵を見て言われました。そうなんだろうか・・・。とにかくちょっとずつでも上手くなってるといいなー(*ノノ)さて、明日は京都は26度らしいです。うへあ。だんだん虫を見かけるようになってきて恐怖を覚える翼でした。 [0回]PR