変化を恐れるな。 「電気羊を知っている?」 私の言葉に、彼はきょとんとした瞳を向けてからいつもの柔和な笑みを浮かべた。優しげな瞳はただ言葉の続きを待っていて、だから私は口を開く。「電気羊はね、猫や犬よりも優れた愛玩動物なのよ。やわらかくてかしこくて。電気で動くから草を殺したりしないし、とっても優しいの」 自慢げに話す私に、彼は微笑みを浮かべたまま「それはいいね」と頷いた。「アリスは、電気羊が好きなんだね」「ええ、とても好き。サンタクロースが届けてくれればいいのに」 テーブルに頬杖をついてため息を漏らす。この前のクリスマスはサンタクロースはぬいぐるみを送ってきた。欲しいたんて言った覚えはこれっぽっちもないのに、どうしてそんな意地悪をするのかしらと、目の前の白い兎の耳を持つ少年に文句を漏らしたことを覚えている。「サンタクロース?」「知らないの?」 彼の疑問を浮かべた瞳に私は驚いた。いまどきサンタクロースを知らないなんて!「サンタクロースは素敵なのよ。毎年12月24日の夜にいい子のところにプレゼントを届けてくれるの。世界中のいい子のところによ、すごいと思わない?」 赤い衣装に身を包んだ小太りな配達員を思い浮かべる。彼は12月24日以外の364日を一体どうして過ごしているのだろうか。世界中の子供達の住所を調べているのかも。 私が想像の世界に浸っていると、彼はカップの中のグリーンティを一口飲んでから、疑問を口にした。「じゃあ、どうしてアリスはプレゼントがもらえるの?」「ほえ?」 突然の質問に思わず変な声が出てしまった。 もちろん変な声で彼の疑問が消えることはない。「アリスはいい子なの?」「いい子よ。だってプレゼントがもらえるんだもの」「プレゼントがもらえるのがいい子なの? じゃあどんなに悪いことをしていてもプレゼントさえもらうことができればその子はいい子になってしまうよ」「屁理屈はよして。プレゼントはいい子のところに届くのよ? それはすなわち、もらった人がいい子じゃなければいけないわ。プレゼントはもらった子がいい子だという証明なのよ」「いい子悪い子の基準は? 判断するのはそのサンタクロースかい? ならばサンタクロースに一度でもプレゼントを忘れられたいい子はたちまち悪い子に早変わりだね。ビビデバビデブー♪」「サンタクロースはプレゼントを忘れたりしないわ」「じゃあ、サンタクロースに嫌われたら終わりだね。パラレルパラレル♪」「サンタクロースは子供を嫌ったりしないわ!」「サンタクロースは夜にプレゼントを持ってくるんだね。じゃあこういうのはどうだろう。いい子の兄と悪い子の弟の兄弟がいました。12月24日、サンタクロースは兄にプレゼントを持ってきました。ところが夜中に目を覚ました弟がこっそりプレゼントを自分へのプレゼントにしてしまいました。次の朝、目が覚めると弟にはサンタクロースからのプレゼントが届いていて兄にはなにもありませんでした。さあどっちが悪い子?」「お兄さんに決まっているわ。だって弟がこっそりプレゼントを奪ったんですもの」「それを誰が証明できる? 弟が正直に言うはずがない。他には誰も真実を知らないのに?」「それは――そう、サンタクロースはその子の欲しいものを持ってくるの。だからプレゼントを見れば誰への贈り物かなんて一目瞭然だわ!」「兄と弟の欲しいものが一緒だったら?」 彼は柔和に微笑む。 言っていることはひどいのに。とても優しそうな顔で笑う。「アリス。僕の大好きなアリス」 私は両手でスカートをぎゅっと握って彼を睨みつけた。「アリス、いいかい。この世には良いものも悪いものもないよ。あるのは白と黒。もしくは表と裏。それだけさ」「……そんなことないわ」「そんなことあるよ」 彼は、目の前の彼は、相変わらず柔和に微笑んでいる。斧で首を切り落としたくなるほどに最高な、優しげな顔で笑う。 私は彼に意趣返しとしたくて考えた。白い兎の耳を持つ、この白い肌の少年になんとか言い返してやりたい。私を傷つけた彼が憎らしかった。 白い少年。そうだ、彼は白いのだ。あるのが白と黒ならば、黒い彼も存在しなければならない。 それはとてもいい仕返しの言葉だと思った。「……なら、世界にあるのが白と黒なら、どうして黒い兎はいないの? どうしてあなたは白だけなの?」 わざとらしく首を傾げて見せる。我ながら嫌味な言葉だったけれど効果はあった。テーブルの向かで、彼は一度表情を消して少し困ったように微笑んだ。「いるじゃないか」「え?」「ほら、そこに」 白い手袋が人差し指を伸ばす。まっすぐに私へと伸ばされたその指先のは、けれど私を指しているのではないことはわかった。 ゆっくりと振り返る。いつものお茶会をしている、薔薇で囲まれた女王の庭。その片隅に彼は在った。 優雅な仕草でお辞儀をした。白い兎の耳を持つ少年のものと一寸の違いもない動作だったが、上げられた顔の作りに一寸の違いもなかったけれど、それでも決定的に絶対的に違っていた。黒い兎の耳と褐色の肌。整った顔に浮かぶのは柔和な微笑ではなくニヤニヤとした嫌な笑い方。「そういえば今日は、12月24日だったっけ。まあどうでもいいか。アリスがいい子なのは、僕だけが知っていればいいことだ」 テーブルの向かいにいる彼の声など耳に入っていなかった。 3時の鐘が鳴り響く薔薇の庭園で、私と彼は出逢った。 出遭ってしまった。Title of "The present of Santa Claus."To be continude...?*****そろそろ転載かなぁ。まったく間が開いてしまってすみませんorz腹が痛い。唇がヤバい。翼です。突然だけど変化を楽しめなく、大体において変化を恐れている僕は作り手としても人としても成長できないんじゃないかと思う。常に変化を求める人は好奇心旺盛な人だし、好奇心は人を成長させる。その点自分は知的欲求も低いし、なにより好奇心が薄い。興味は持つけどその数秒後に興味がなくなるのは好奇心と呼べるのか。否。まあこんなことを考えるより手当たり次第に辞典とかWikipediaとか読み散らかした方がいいとは思うんだけども。子供の成長を親とか環境に頼った結果だよなぁ。自分を育てるのが自分自身だと気づくのが遅すぎた、くそう。まあ変人に見られても変人を突き通すだけの強さがなかったとも言えるが。(そもそも強い弱いという表現自体も曖昧なようにも思えるけれど)変わった人だねと言われることがステータスな世代ではなくなったのですね。まあいいや、どっちにしろ怖がっても勝手に変化してるわけだし。問題はその変化を作るか、それとも流されるか、なのです。話は変わって、最近別れが多い、大過ぎる。繋がりを続けることはとても難しいと思うのです。そしてやっぱり僕は人の気持ちを考えられてないようなのです。うーん、難しい。他人の気持ちがわからない。ことが当たり前だと思っているのがいけないのか。うーん。さて寝よう。サンタクロース様、そうかSFCソフトのヒーロー戦記をDSで復刻させてください。あ、ちなみに発売は今年の12月24日で。 [0回]PR