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僕は、今を生きてるよ、先生。

死ぬべきときの為に、生きている。

そう兄は言った。
私と姿形の寸分も狂わない容貌の彼と、異なった道を進むようになったのは言った何時からだったろう。
街を一望できる時計台の、もうすぐ三時を指そうとしている短針の針の上に座って、兄は私に冷えたコーヒーの缶を差し出した。
「ブラック無糖。カフェオレは好きじゃないって、前に言ってたよな?」
私は頷きひとつで缶を手に取った。
魔法使いの家の肥えた羊が空を飛んでいる。明日は曇りになるのかなぁ、なんてジェシカが心配していたけれど、曇りの日の前には牛が飛んでいるはずだから、きっと明日は晴れるだろう。
兄はコーラのペットボトルを良く振るってからキャップを開ける。いつもの彼の癖だ。その行為にどれだけの人が迷惑して被害を被って来たか、彼が知らないはずもないので、それでもやめられないのは彼の性分なんだろうか。
「いい天気だな」
プラスチックの容器から勢い良く飛び出した黒い液体は、その中にある無数の気泡を伴って宙に薄らを虹を作った。
「兄さんがいなければね」
私は伸びた爪でプルタブを持ち上げながら、青空の空に広がる街を眺めた。
そういえばアインリュップル姫はそろそろ城を抜け出したんだろうか。ホワイトカラーのパラソルの下で四時に待ち合わせをしたと言っていたが、彼女の白馬の王子様は妻子持ち。諦めろと言ったのに、それでも彼女は見るだけで満足だと言っていた。いやあ、青春。
「久しぶりに帰って来たっていうのに、その言い草はなんだよ?」
口を尖らせて言う兄に、持っていたコーヒーを盛大にぶっかけてやりたい。勿体無いのでそんなことは絶対にしないけれど。
「私の名を語って悪行三昧の兄に優しい言葉をかける妹がいたら見てみたいわ」
「大丈夫。エーリッヒ巡査やベイン捜査官はちゃあんと俺だって分かってるから」
「ゴシップメディアに私の名前が踊るたびにアーノイン先生に愚痴を言われるのは私なのよ」
「どうせでるのは俺への賛美と尊敬の言葉だろ」
「ついでに貴方がどんなに勇気があって賢くて愚かしいかも聞かされるわ」
「今度埋め合わせにバングール・シュワンコッテの首飾りでもプレゼントしてやるよ」
「持ち主を呪い殺すなんて言われてる首飾りなら、私より兄さんの首に方がよく似合うわ。ああ、それからジェファード・コンブリッツェの王冠も冠ったらどう?」
「あの人魚の鍛冶屋が海底の至宝を加工して作ったって言われつ伝説の? あれは御免だ。まずデザインが気に入らない。ヴェフタス貝を使うよりはサンティッチオウム貝の殻を使った方がだんぜん綺麗なのに」
「・・・見て来たの?」
「人魚にはちょっとした知り合いがいてね」
そう言って兄は器用にウインクする。私にはできない色落しを使って、この男はとんでもない交友関係を作り上げて来た。世界のあちこちではなんとも派手に暴れ回っているらしい。らしい、というのは彼はこの街の近辺ではそういった冒険者か義賊まがいのことをしないからだ。両親と、彼の教え子であるアーノイン先生がいるからかもしれない。とくにアーノイン先生の雷はとても恐い。
兄の武勇伝はよくテレビや新聞、雑誌などでも取り上げられている。世界屈指の神童といわれた稀代の名魔術師。魔法学校を飛び級で卒業して、末は王室付き魔術師か国王軍のトップかと謳われたものだが、彼はそれらを一蹴して家出同然に飛び出して行った。家族である両親や私、それに兄の親友だった数人はああやっぱりな、と呆れた顔をしたものだが、他の人間はなにを馬鹿なことをと騒ぎ立てたのは記憶に新しい。しかも街を出て行ったと思ったら、隣国で奇抜な格好の怪盗として現れたり、敵国で難民救済活動に精を出していたりと、行動が突飛な上に規則性がなく(もしかしたら確固とした目的だって有りはしないのかもしれない)、彼の意図はさっぱりわからない。もちろん、今こうして私の隣に座っていることだって、学校帰りの私を誘拐して無理矢理連れて来たのだ。彼が言うには"デート"らしいが、どうせデートするならこんなところじゃなくてお洒落なカフェにしてもらいたいものだ。しかも缶コーヒーとコーラなんて、ロマンの欠片もない男め。
「——で、何の用?」
「なにがだい? 俺はたんに、久しぶりに可愛い妹とちょっと談笑しに来ただけなんだけど?」
「貴方の考えてることは筒抜けなのよ」
「おっと、双子の互換性を失念していたよ。てことは俺がいつ童貞を捨てたかも知られちゃってるのか?」
「ふざけるなら今ここから突き落としたっていいのよ」
「それはお前だって困るんじゃないのか? ほら、土産だ」
兄はシャツの胸ポケットからペンダントを取り出した。
「なに、これ」
「ドワーフの遺産。シュドゥル州郊外のバンデス谷まで行って、ノマネに会ってやっと探して来たんだ、感謝しろよ」
「…こんなものいらないわ。ノマネに返してきて」
「いいのか? それ、ノマネがお前にって言ってたものなんだぜ」
「ノマネが?」
私は驚いてペンダントを見つめる。金の凝った作りの装飾が施されたロケットの中には、ノマネという私の昔馴染みが愛した詞が綴られていた。それを覗き込んでヒュウと口笛を吹く兄に左腕で肘鉄を喰らわし、あやうく天に召されそうになる彼に一瞥をくれてペンダントに視線を戻した。これはノマネの宝物だったはずだが、一体どうしたんだろうか。
「まさか、ノマネになんかあったんじゃないでしょうね?」
時計台の短針にぶら下がる格好の兄に訊ねる。
「さあね。俺はそれを取りに行ったら渡してくれと頼まれただけだ。そんなことより引き上げてくれないか? お兄ちゃん、腕がもげそうだよ」
「いっそもげてしまえば世界が平和になるわ」
「毒舌だなあ。たったふたりの兄妹なのに」
「残念ね、もうすぐ"たった二人"じゃなくなるわよ」
「なんだって?」
片腕で身体を支えるのはけっこう大変なはずなのに、兄は涼しい顔でぶら下がっている。流石、と思うのはなんだか癪なので、彼がただの筋肉馬鹿なのだと思うことにしよう。
私はコーヒーをズズッと啜ると、水平になった短針に立った。ちょうど頭上では耳鳴りでも引き起こしそうな大音量で硬質の鐘が鳴り響く。
ゴーン、ゴーン。
昼の三時を知らせる鐘だ。そろそろ家に戻らなければ、ブランチを食べ損なってしまう。
「おい、今なんて言ったんだ?!」
鐘の音に負けないようにと、兄が叫ぶ。いつのまにかコーラは消えていた。路上の誰かに当たって怪我でもさせてなければいいが。
「もうすぐ、たった二人の兄妹、じゃなくなるのよ」
きっと声は届いていないだろう。大きな鐘の音で私の声はかき消される。けれど兄は確りと私の唇を読んだようで、短く呪文を唱えると風の浮力を利用して短針の上に舞い立った。いっそ落ちれば早く地上へ着くだろうに。
「それは本当か?!」
「産婆のマーシュおばさんの言ったことがデマでなければね」
「大変だ! こうしちゃいられない!」
兄はあたふたと時計台の中へ消えて行った。私は何事かと眉をしかめ、彼を追って時計台の階段を下る。
「一体どうしたのよ?!」
「妹か弟が生まれるなんて聞いたことないぞ?!」
「だって、全然帰ってこないじゃない!」
「それは…それだ! とにかく俺は出掛けてくる!」
いつも出掛けてる癖に、と文句を言うことさえも今更だ。
「どこに行くのよ!」
「ヴォドゥール伯爵のところに行って純銀のベルと、アインリュップル姫のところでバタフライの金粉をもらってこなきゃ! ああ、それからゼッタ大佐の奥さんのところへも行かなきゃ」
「なにしによ?!」
「決まってるだろう! 僕らの妹か弟に贈り物をするのさ!!」
そう言うなり、彼は幼いころ、壁に書き記した魔法陣で姿を消した。こんなときのために、と随分前に彼は街のあちこちに魔法陣を書き残していたが、まさか時計台にまで書いているとは。しかもご丁寧に、白い壁に白のチョークで描いてあり、そう簡単には見つけることができそうにない。私も彼が転移する際の魔法陣の発光現象でやっとわかったのだ。既に魔法陣がどこに描かれていたかわからなくなってしまった。
「……相変わらず、自分勝手な男だなあ」
私の呟きは、時計台の壁に反射してよく響いた。

fin
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えーMONSTER読み終えました。
なんだあのラスト・・・いや、面白かったけど!!!
あんなにハマり込んだ漫画も久しぶりです。いやー本当に面白かったなぁ。
Dr.天馬がどんどん出番が無くなってった気がしないでもないけど、まあいいか。
でも一気に読むと情報過多でいちいち覚えてられなくなります。読み返してやっとキャラクターに相関関係がはっきりしたりします。難しいよ、あれ。

でもって、読み終えてこの日記を書き終わるのがもうすぐ朝の四時でござい。
うわー今日昼から待ち合わせしてるのに・・・(汗)
メイド喫茶めぐりです。2件回ってきます。ドキドキ。普通の格好でいいんだろうか。


とにかく今日はお風呂に入ってめいっぱい汗をかいたのでお肌つやつやです。
ギターの練習しなくちゃなぁ。
あ、部屋も片付けないと・・・友達にメールもしなきゃ!

やらなきゃならないことが山積みです。
でも、うん。生きてるってこういうこと。


そんじゃ、おやすみなさい!




































中学二年生のときの担任の先生が言った台詞が忘れられません。
当時やってた漂流教室というドラマで窪塚洋介さんが言ってた「今を生きろよ!」を、聞いた当時は苦笑か嘲笑かそんなものが零れたわけですが。
高校生になってしみじみと胸に来ます。
「今を生きろ」
後悔しないために、というより、死ぬ時のために、という気がいます。
相変わらずネガティブですが、そこに僕が在るからこそなんだよなぁ。
僕は今を行きてますよ、先生。
なによりも、快楽を追い求めて。

つまるところ、「趣味に生きてる」ってだけなんですが(笑)
勉強しなきゃなぁ。

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