手を伸ばしても、そこに君はいない。――それがただ、寂しい。 手術室を出たところで、私の身に起こった第一のアクシデントは、両側にいたふたりの女性によってもたらされた。 左腕をトランプの女王。右腕を椿姫。 私はそれぞれに両腕をガッチリとホールドされていた。「な……なに?」 椿姫を見ればにっこりと、それはもう満面の笑みを返された。「ねえ、なんなの?」 トランプの女王を見れば、ニヒルな笑みを崩さずにただ前を向いている。 私はわけがわからず、二人に引き摺られるままに歩いた。手術室から遠ざかり大きなエントランスを抜けて連れてこられたのは、裏に置かれた巨大な庭園が一望できるサロンだった。「すごい……」 部屋に入り、椿姫とトランプの女王に解放されたのを期に私はテラスに駆け寄り目を見張った。 ベルサイユ宮殿がその居を構える庭園のごとく、この城から見下ろす先にある庭園も見事なものだった。大きな噴水、色とりどりの花、整列した木々に置かれた彫刻の数も半端なものではない。 まるで、庭園のためにこの城が建っているのか、この城が建っているからこそ庭園が存在するのかわからないほどだ。「素敵よね~」 私の隣に立つ椿姫がうっとりした顔で呟く。「ええ、本当に……」 この庭の四季が見てみたい。きっと日がな一日見ていたとしても飽きることは無いのだろう。「アリスは、この庭園欲しくない?」「いいえ」「……あ、あら、そう」 完璧なまでに作り上げられた庭園は、だからこそ私は手に入れたくない。巨大な庭は掃除も整備も嫌になるほど大変そうだろうし、なにより私はこの美しい庭を手にしたところでこの状態を維持し続けようとは思うまい。 残念そうな椿姫に首を傾げて、もう巨大な庭園に飽きた私はサロンへ戻ろうと踵を返した――そして、赤い薔薇の色が散ったピンク色のドレスを見た。「久しぶりね、アリス」 そう言って可憐に微笑む彼女は、満足そうに血の付いた斧を手にしていた。「久しぶり?」「――そう……やはり覚えていないのね」 地の底に巣食う魔女の唸り声の様な冷えた声で言って、彼女は悲しそうに視線を落とす。「いいわ、じきに思い出すでしょう。それよりも――」 そうして斧を大きく一振りして毛足の長いカーペットを汚した。「――王冠を、まだ誰も被っていないのよ」 苦笑と共に吐き出された言葉に、私は首を傾げるしかない。王冠をまだ誰も被っていないことが、私に一体何の関係があるというのか。 疑問に頭を寝食されるなか、私の右側に立つトランプの女王の放った一言で、私は頭上にクエスチョンマークを増やすことになった。「女王様、再度、新しいトランプの女王の選出をお願い致します。――もちろん、アリスを含めて」Title of "In a salon"To be continude...?*****ここのところよく壊れます。自転車が壊れそうです。リビングのこたつが大破(足が折れた)しました。プリンターがご臨終。・・・なんの呪いだこんちくしょい(´□`)2日目にしてSAIに飽きそうです。MIDIにも飽きそうです。飽きっぽいです。翼です。明日はチョコフォンデを食べに行く予定。 [0回]PR