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逢いに行くから待っていておくれ、僕の愛しのマーメイド。

 空に星が瞬くのはいつものことだ。
 澄んだ空気に果てまで見渡せる海。
 その中で泳ぐ金色の髪を見つめて、僕は銀製の笛を取り出す。
 振り返った彼女はにっこりと満面の笑みを浮かべて、陶器のような肌をした腕を伸ばしてきた。
「いらっしゃい、ハニィ」
「子ども扱いはやめてくれないかな」
「なに言ってるの、子供のくせに」
 彼女――カリーナが居座るのは岸壁から20メートルほど離れた場所にある岩山だ。その岩山はとても深い海の真ん中に、突き出るように成り立っている。普通の人間ならば岸壁から足を踏み出すこともできやしない。
 最もそれは、畏怖と卑下の対象であるカリーナに近づきたくないからなのかもしれないが。
 カリーナの種族は昔、その歌声で海を狂わし船を沈めると恐れられてきた。彼女たちに逢えば、生きては帰れないと僕の友達もそう言われて育った。だから僕は友達をこの場所には連れてこない。双方に気分を悪くさせるだけだと知っているから。
「来ないの?」
 おかしそうに小首を傾げるカリーナ。僕は憮然とした表情を作った。
「僕はピーターパンじゃない」
 そう言えばカリーナはくすくすと笑いを零し、辺りを見回した。
「そういえばシモーヌはまだ来ていないわね」
「あの人、仕事しないでいいの?」
「息抜きよ」
 カリーナは器用に片目を瞑って見せた。美女のウインクは様になるなあと僕が見惚れていると、ひたりと裸の右足が誰かに掴まれた。
「うわっ!」
 氷のように冷たい手に驚いて飛び退くが、足を掴んだ手はびくともしない。
 それでもすぐに勘付いて見て見れば、岸壁から這い上がった死人か幽霊のように、黒髪を濡らした女が黒いマニュキアを塗った爪を晒して僕の足を掴んでいた。それはまるで出来の悪いホラームービーのようだった。
「シモーヌ…」
 名前を呼ぶと、長い黒髪を掻き揚げて女――シモーヌが手を放した。
「もうちょっと怖がってくれてもいいじゃない」
「ワンパターンなのよ。ハニィもいい加減慣れたでしょうに」
「ハニィって言うな」
 僕がカリーナを睨みつける横でシモーヌがよっこらせとババくさい――言葉にすればきっと彼女に殴り殺されるだろう――掛け声を上げて立ち上がった。
「遅れてごめんなさいね。いつもより研究にのめり込んじゃって」
 肩を竦めて見せるシモーヌの、純黒のドレスはとても綺麗に風に靡く。カリーナとは違い、色黒なシモーヌだが肌は綺麗だ。胸も豊満だ。ドレスの下から覗くのは、なんともグロテスクな八本の足だが。
「さあいらっしゃい、ハニィ」
「シモーヌまでハニィなんて呼ばないでよ。かっこ悪い」
「あら、美女二人に寵愛を受けているのよ? 光栄に思いなさい」
 シモーヌは笑いながら手を差し伸べ、僕はそれに応じる。彼女の首飾りから放たれる光が繋いだ手を通って僕の中に流れ込んでくる。月光を吸収して昇華し、魔力に変えているのだと以前に聞いたことがある。だからこの光は月の魔力の結晶とも言えるかもしれない。
 僕はシモーヌに手を引かれるまま、海に足を踏み出した。最初こそ揺らめく海面に足を取られていたが、もう慣れた。いつものように足に微妙な加減で力を入れてバランスを取ると、シモーヌから手を放して岩山に鎮座するカリーナのもとへ。
「ハーイ、ハニィ」
 華麗に手を振るカリーナの指の間には、僕たち人間にはない水かきがついている。それでもあまり違和感がないのは、彼女の指が長いからだろうか。
「ハニィって言うなってば」
「可愛い、ハニィ」
 僕の頬をつつくカリーナの指を振り払い、隣でくすくすと笑うシモーヌにもひと睨みして。
「今日は満月だね。綺麗だ」
 なんて言ってごまかした。けれどシモーヌもカリーナも僕と同じように空を見上げて頷いた。
 風の流れは歩くほどだし、海は揺りかごの如く。
 ちかちかと瞬く星をしばらく見つめていたら、なんだか警報灯のように思えて、僕は時間を思い出した。
 僕は夜明けまでには帰らなければいけない。
 だから笛を取った。唇近くに添え当て、細く長く息を吐く。
「いつ聴いても綺麗な音ね。流石はハニィ」
 目を細めて微笑むカリーナを睨みつけようとしたけど、彼女の表情があまりにも優しく、そして綺麗だったからやめておいた。ただ視線をカリーナへ向ける。それだけで、彼女は静かに息を吸い込んだ。


"swaying...swaying...
swaying...swaying...

A mermaid is in the dark sea on the rolling ship.

swaying...swaying...
swaying...swaying...

The hair of the color of the moon danced to a wind is just like silk.

A mermaid's singing voice is drifting in the air."


 カリーナの声は優しく強く辺りに響く。
 今まで一度も聴いたことのないくらいに澄んだ声色で、遥か昔に数多の 船を沈めたと言われる彼女たちから受け継いだ声で、カリーナは無音の空に向かい喉を震わせる。
 僕はカリーナの唄に合わせてフルートを奏でる。初めて逢ったとき、僕はバイオリンを手にしていたがあれはもう海の底だ。哀れ今は亡き暴力親父の形見は暗い海の底。カリーナのコレクションの一部として、今頃砂を被ったインテリアと化しているだろう。未練なんてものは微塵もない。代わりに僕はカリーナからフルートを奪い取ったのだから。
「いつ聴いても素敵ね」
 うっとりとした声で放たれたシモーヌの言葉に、僕とカリーナは目を合わせて笑いあった。僕の音を、カリーナの声を聴いて、そんなことを言われるのはこれ以上ない幸福だ。
 カリーナの声には、海を狂わせ船を沈める力なんて大層なものはない。ただ、昔の人魚の悪行とその伝聞が、人間たちの恐怖心を煽り差別を生み出した。それが悪いことだとは僕は思わない。それは生物の自己保存本能に従うのなら当然のことだろう。でも、それでも。

"Ah...ah...
Ah...ah...

A mermaid is kiss quietly.

Ah...ah...

Ah..."

 こうやって夜中しか逢えないのは、やっぱり寂しいと思う。
「ハニィ、どうしたの? 音がとても悲しげよ?」
 カリーナは笑いながら僕の頬をつつく。それを振り払って、僕は憮然として曲を続けた。そんな僕にカリーナとシモーヌは顔を見合わせて声を上げて笑い合う。なんだか悔しいが、それでも僕はフルートを離さない。
 カリーナの歌う唄は人間が作った、人魚への畏怖と賛美を込めて作られたものだ。
 かつて船を沈めた人魚の唄を、船を沈める力さえない人魚が歌うなんて、なんて皮肉なんだろう。
 それでもカリーナはこの唄をひどく愛おしそうに歌いあげる。僕のフルートに合わせて。
 シモーヌは八本の足の動きを止めて聴き入っている。
 僕はフルートを引き続ける。人魚の声に合わせて、深海の魔女を喜ばせるために。


----------------------------------------------------------fin-----------

タイトルと人魚つながりで書いてみました。
最後の方がグダグダだったり英文がめちゃくちゃなのはまぁ、ご愛嬌!
ちなみに設定について補足はありません。各自のご推察にお任せします。
ディズニーアニメの小さい人魚姫と名前を同じしようと思ったけどやめました。なんか怖いし、ディズニー。



えーどうも今晩は。
バンドのスコアを見失ってしまい、心底焦っている翼です。
なんでもらってすぐにコピーとっておかなかったんだろうorz


今日も今日とて遅刻しました。
ここのところ、講義開始前に学校へ行けることが少ないです。ヤバヤバ。
でも、ちゃんと行けてもパソコンやってるしなぁ。
プログラミングの課題が残っているのに・・・うへえorzorz
Win基礎とか有り得ないくらいの課題です。どうしよう。とりあえずやるべか。うん。


今日昼過ぎたあたりからものすごい頭痛が襲って参りました。
3限目終わってから我慢できなくなって、事務で頭痛薬をもらいました。でもここの薬めちゃめちゃ効きます。
「ニューカイテキ」だっけな?チョーカイテキですよ(笑)すぐ効くし。
でも明日もこんなんだったらどうしよう・・・。
原因はどうやら肩こりのようです。最近こってるというよりも痛いくらいだしなぁ。肩凝り体操しようかな(笑)



えっと、今日(12日)も拍手ありがとうございました!!
拍手解析で青い棒グラフが並んでるなんて・・・本当に、がんばって行きます!

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