「あ、忘れてた」 そう呟いた彼女は腕を片方忘れてきていた。「なんで忘れるんだよ、そんなもん」「仕方ないじゃない。急いでたんだから」 利き手に持ったバックを振りかざして、彼女はふくれっ面を見せる。「どうりで違和感があったはずだわ」 どうりで腕時計がないはずだわ。 ぶつくさと誰にとも文句ともつかない文句を吐き出しながら、彼女は困ったように眉根を寄せた。「ていうか、どうして君も気づかないの?」「俺が気づく前にお前が気づいたんだ」「ああ、そっか」 彼女はぽんと手を打とうとして、片手がないことに再び気づいた。ちょっと寂しそうな顔。 俺は辺りを見回して、彼女と同じくらいの年齢のホームレスドールを見つけた。彼女にちょっと待ってて、と言い残し、ホームレスドールのもとへと近づく。「すみません」「…なんですか?」 ホームレスドールは伏せていた顔を上げてあからさまに不審は目を向けてくる。着衣がそれほど汚れていないところを見ると、身体を売って生活しているのかも知れない。「お金は払いますので、貴女の片腕を一日貸していただけませんか?」「どうして?」 ホームレスドールはそう口にしたものの、俺の後ろにいる彼女を見つけてああ、と呟いた。ふふふと妖艶に笑う仕草に、紫の濃いルージュに、郷愁にも似たデジャ・ヴを感じる。「彼女、忘れっぽい子なのね。いいわ、一枚で貸してあげる」「助かります。今日はディナーに誘う予定だったので」「私は今日は何も予定がないから、ずっとここにいるわ」「必ず返しにきます」 俺はホームレスドールに頭を下げて、受け取った片腕を持って彼女の元へと戻る。「はい」「え」「いや、え、じゃなくて」「借りたの?」 訊ねる彼女は複雑な表情だった。嫌そうであり、有り難そうであり、信じられないものを見るような、軽蔑するような眼差しで、俺を見つめる。「顔の作りからいって、ボディの型は同じくらいだろ。性別も年齢も同じくらいだし……それとも、ホームレスドールの腕は嫌か?」 主に愛玩具用に製造され、所有者に放り出された彼女達を蔑み差別の対象として見る者は人間でも、アンドロイドであるドールにもドルフィーにも確かに居る。けれど彼女が彼らと同じ差別主義者だというのは聞いたこともないが。「そうじゃなくて、五体満足じゃないと危ないでしょうに。ホームレスドールは一般のドールよりも危険が多いのよ?」「大丈夫だって、ここら辺人通り多いし」「でも……」 言い淀む彼女の表情は芳しくない。なるほど、差別どうこう以前にホームレスドールの彼女の身を案じてた訳だ。優しいけど馬鹿みたいだなぁなんて更々酷いことを思いながら、俺はどうやって説得したものかと、キメの細かい肌をしたホームレスドールの腕を抱えて考えた。 考えはすぐに途切れた。「だいじょうぶよぉ」 俺の肩口から声が通り抜けた。驚いて振り返れば、肩腕を貸してくれたホームレスドールが立っていた。「私は戦闘用にカスタマイズされてて、その上護身機能が搭載されてるから。心配しなくても大丈夫よ。私が襲われて、私が壊されるよりも相手が死ぬ方が確率的には高いわ」「ほら、安心だろ」 俺はホームレスドールの口上に乗った。開発研修生の目から言わせてもらえれば、どう欲目に見ても護身用カスタマイズ止まりだが、彼女の立場を考えて黙っておくことにする。そもそも戦闘用カスタマイズは金がかかるから、護身用カスタマイズなだけかもしれないし。 まあ、一般人相手、護身用カスタマイズで十分だろ。「うーん…そうですか?」 折れたのは彼女だった。一度ホームレスドールを心配げに見つめてから、それじゃあお借りします、と微笑んだ。「ありがとうございます」「礼なら諭吉さんをくれた彼氏に言うんだね」 ふふふと笑って、ホームレスドールはもと居た場所へ戻っていった。ホームレスドールが青いビニールの上に座るのを見届けて、彼女は片腕を自分のそれに嵌める。ガチリ、と硬質な機械音の後で、パチリと電気の通る音がした。「大丈夫?」「大丈夫」「んじゃ、行くか。20歳の祝いに、とびっきり美味いもん食わしてやるよ」 借り物の手のひらを握り締めて、俺は彼女を促した。ぺこりと会釈する彼女に、ホームレスドールはひらひらと手を振っている。 そうして俺は彼女と笑い合い、久方ぶりのデートに出かけるのだ。 ホームレスドールに何か美味しいものを買ってこようと相談しながら。fin********あえて補足はしません!こんばんは翼です。眠いです。アニメのコードギアスのキャラがCLAMPっぽいなと思ったらキャラデザがCLAMPでした。やっぱりかー!RPGの企画書課題を作るのが、楽しいけどすっごい難しいです。シナリオや世界観・キャラクター設定はともかく、システムを考えるのが難しい・・・。つくづくゲーム会社のプランナーさんはすごいなぁと思います。とりあえずは、以前世界設定まで考えていた小説を改編して、出そうかなと思います。マルチシナリオにはならないかもしれないけれど、多分岐型のRPGが多いからあえてはずしてみるのもいいかも知れない。それでもバッドエンドとハッピーエンドの二種類はあったほうがいいのかなぁ。うーん・・・(-"-;えもこうやってあれこれ考えるのは楽しいんですよね。それ以前にWindows開発やC言語の課題、部屋の掃除のことを考えろよって話なんですが(汗)それでも考えてしまう習性・・・作り手の性だと思います。明日は晴れたらいいなぁ。 [0回]PR