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そうして彼女は笑顔を見せた。


 にっこり笑って。ハイ、チーズ。
 そんなことを言って、彼女は笑う。
 俺は付き合いきれないとばかりに手元の紙を引き寄せた。
「それで?」
 カルテの束を留めていた輪ゴムを外し、一枚一枚丁寧に流し読みしていく。
「iz duash bou bofrew?」
「いや、明日の天気とかどうでも良いから」
 白衣の袖を引っ張られて彼女の方を向けば、ニヤニヤと人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべてくれた。
「iz duash bofrew?」
「知らねえよ」
 言い放って、睨みをきかせてからカルテに目を戻す。もちろん彼女は凄みをきかせたところで大人しくなるような性格ではないので、すぐにまた袖を引っ張られた。 
 無視した。
「doda bre...って、先生聞いてる?」
「いや」
「ひどっ!」
 放すかと思った白衣を更に引っ張られ、俺は投げやりに白衣を脱いで渡してやった。そうしたら手持ち無沙汰に白衣を眺めてから、彼女はそれを放り投げた。なんなんだ、一体。
「しょうのない奴だな。……それで?」
「wes?」
「いや、日本語で喋ってくれ。録音してるの知ってるだろうが」
「quo...doda tuhbe ferl fesie」
「だーから」
「はいはい、わかってるって。私らの共通言語は喋るなってんでしょ?」
「そう」
「gottun...」
「あ?」
「melres dojuda yesh ce hoghl yesh zce vueelf yesh」
「日本語喋れ」
「体調良好、メンタル良好。全体的に見て不備は無しでございます」
「ならよし」
 下から二枚目のカルテには「知能判断テスト及び体力測定の結果は良好。以降の使用続行に不備は見受けられない」と速記がしてあった。
 俺は一番下になっていた白紙のカルテの、そこに書かれている最初の項目に赤色ボールペンで大きく丸をつけた。
「ねえ、先生」
「なんだ?」
「私のカルテって、何が書いてあるの?」
 興味なさそうに窓の外を見つめながら、彼女はそう訊ねた。視線は遠く窓の外。けれど隙あらばカルテをひったくろうとしているのは間違いないだろう。したたかで狡猾な彼女は、それでもカルテへ向けたあからさまな気配を隠そうともしない。
「知りたいか?」
「うん」
「教えない」
「けちー」
 からからと笑うも、目が笑っていない。他人を騙すならもっと上手くやれよ、と一応アドバイスしていた。そういえばと、彼女が人格創作の授業ではそれほど優秀でないと聞いたことを思い出す。けれど彼女のことだ、俺たちが彼女をそう見ることを考えた上での行動かもしれない。
 俺はカルテの備考欄に特殊なインクの入ったペンで「要監視/騙しの可能性あり」と速記した。
「夢は見るか?」
 俺は彼女を振り返って、頬杖をついて訊ねた。
 突然の質問に、彼女はうん?と首を傾げた。
「その質問は曖昧よ先生。具体的に言い直して」
「好きなように取ればいいさ」
「・・・――昨日ね、夢を見たよ」
「どんな?」
「さあ。好きなようにとって」
 そう言って肩を竦める彼女に、俺は苦笑を返した。
「しょうのない奴だな」
 カルテに赤色のマーカーで一筋線を引く。
「ほら。もう言っていいぞ」
「あれ、赤だー」
 受け取ったカルテの赤いマーカーラインを見て、彼女は不満そうに呟く。
「次ひかえてるから、とっとと行った行った」
「あら、つれないのねセンセ」
「うるせーよ」
 彼女は放った白衣をそのままに、彼女はカルテを持って立ち上がった。その時キシリと鳴いたパイプ椅子を、彼女は蹴り飛ばす。
 俺のこめかみが切れて、窓が割れた。
「それじゃあね、先生。私の弟は可愛がってくれるといいな」
 軽い口調。軽く笑って軽くウインク。
 彼女は引き戸を開けて出て行った。扉が閉まる前に垣間見えた彼女の弟の悲しそうな笑い顔が印象的だ。
「おー。じゃあなー」
 閉じた扉に軽く手を振って、俺は白衣を取ろうと立ち上がった。
 床に横たわる白衣はわずかに黄ばんでいる。これに袖を通してもういくつ月日が流れたかなあなんて感傷に浸る間もなく、俺はその下に鎮座する爆弾を見つけて苦笑する。
 大きさからして、この部屋をふっとばすくらいの火薬が摘まれているだろう。ご丁寧にカバーの取り外されたその中から覗くのは、一見してわかる起爆停止の二本のコード。
 赤。
 青。
 制限時間を示すデジタル時計は、時間を進める方法なんて持ち合わせちゃいない。
「全く、しょうのない奴だなあ」
 俺は可愛い子供の悪戯を止めるべく、机の上のペンたてからハサミを抜き取る。
 赤いラインは廃棄処分。
 けれど青いラインは使用続行。
 赤いコードが命の停止か。
 それとも青いコードが赤い花火か。
「ほんと……しょうのない奴」
 俺は苦笑ひとつ、ハサミの刃を片方のコードに滑らせた。

fin
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昨日は半分寝ながら書いたのですごい状態になっていそうで怖いです(苦笑)

そんなわけで久しぶりの小話。
アルファベットで構成される彼女たちの共通言語は、書いた僕にもさっぱりです。なんて書いてあるかはご想像にお任せします(ぇ)


今日は朝起きたら11時でした。
しかも最高気温も11度だそうで。
ちょっと泣きたかった寝起きです。

あ、ちゃんと学校は行きましたよー。

学校から帰ってから、白い月があんまり綺麗だったからカメラ持って屋上へ。
やっぱり望遠鏡が欲しいです。月撮りたい、でっかい月。

そしてバイト終わりの姉さんとご飯を食べに行って、その後でHDDを買いにソフマップへ行ったら・・・閉まってました(泣)
閉店が8時だなんて・・・orz


そんなこんなで、帰るついでにまた本を買い込みました。
西尾維新『ニンギョウがニンギョウ』(Amazon/PC)
あまりの薄さと値段の高さに、買ってから「立ち読みで済ませば良かったかな」と思ってしまいました。
まあいいや。
楽しみに読もうと思います。




web拍手ありがとうございました!
来週くらいには改装がしたいです!(願望)

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